設計の基本 (第6章)住戸内の効率化(1Kの進化)

前回のコラムまででは、
エレベータやパイプスペースの配置を工夫する事で、
住戸として
使用可能な部分に床面積をより多く配する事が
可能になる話をご説明しました。


ところで、住戸としての床面積を増やせば、
それでそのマンションは
住宅として魅力的なものに
なったのでしょうか?

kitchenimage


新築でも、満室にならない賃貸マンションが存在します。
新築なのに、家賃を下げないと決まらない賃貸マンションが存在します。

「住宅として、
入居者から求められるニーズ」を見誤ってしまえば、
せっかく建てるマンションは夢の建物ではなく、
ただの不良債権となってしまいます。


ニーズ」と言うと、デザイナーズ物件の様な目を引くものと思いがちです。
都心の一等地においては、その通りでしょう。
しかし、デザイナーズ物件が適している立地は、ごく限られた場所である、
と、当社では考えています。


賃貸マンションは住宅なのです。
遊びに来た友人を驚かす場所でも、
ロマンチックな場所でもありません。
入居者はそこに住むのです。
それを考えれば、自ずと
ニーズが何なのかは判明します。


ニーズの分かり易い例として、
単身者用の住戸を考えてみましょう。
一般に言う
ワンルームです。

10年程度前までは、「
水回り3点セット」が当たり前でした。
ユニットバスの中にトイレと洗面台がちょこんと付けられているタイプです。
これは、非常に便利なものでした。
ユニットバスの面積だけでトイレと洗面台の面積を必要とせずに済むので、
16m
程度の住戸面積があれば、洋室6畳の住宅を作る事が出来ました。

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昔のワンルームと言えば、こんな感じのユニットバス・ミニキッチンでした。

しかし、誰もがご存知の通り、
今ではこの装備ではまともな値段で貸す事は不可能となっています。

10年ちょっとから人気は落ち始めていました。
当然の事でしょう。効率は良くても、入居者の方に不便であったら、
「他のもっと良い条件の住宅」
を見付けて、そちらに移って行ってしまいます。


それでは、なにが「もっと良い条件」なのか?

多くの人はそれを「ニーズ」と呼び、「
次のニーズを探します。
しかし、そこには答えはありません。
出て来るアイデアは一過性のもので、数年後にすぐ陳腐化するものばかりです。

実は発想が逆なのです。
本当の「ニーズ」は、「住宅として不自由ないこと」
なのです。

ワンルームに住むのも、
ファミリータイプマンションや戸建に住んでいる人と同じ「一人の人間」です。
別の国に住んでいる人でもなければ、別の星の人でもありません。
嫌なものは同じ。
そう考えれば、「
設計者が次に何をすれば良いのか」は自ずと答えが出ます。


友人が泊まりに来て、お風呂に入っている時、自分がトイレに入る事は出来ない。
そんなユニットバスは嫌われます。

キッチンで料理を作って、その場で食べて、その場で寝る。
食寝分離が望ましいのに、調理する場所で寝るなど論外です。

キッチンは1口コンロで、事務所に付いている様な、間に合わせ程度のものしかない。

1部屋しかないのに、その部屋が6畳以下しかない。


当社では、その時代ごとに、
「今のワンルームの標準装備において不自由なもの」を常に考え、
誰よりも先に改善して来ました。

水回り3点セットの廃止 → ミニキッチンを2口コンロのシステムキッチン化
 → 洋室6畳以下の禁止 → 洗面ユニット独立 → 洗面脱衣室独立 
 → 洋室7畳以下の禁止



この方針を、どれも多くの人が気付く3~5年前には、
実際の設計に取り入れ、建築して来ました。
その事で、「近隣競合物件に対し、圧倒的な
アドバンテージ」のある間取り
の提案を致しました。

10年後にも、標準以上の競争力を持つ企画。
それを実現するために、必要なのは「
現状、何が不便か?
という事なのです。
新築時に、近隣物件の常識を何年も先取りした
圧倒的なプランとしていれば、リスクは相当減らす事が出来ます


ただ、その解決の為に、ただ全ての部屋を大きくして行くのでは
1住戸あたりの占有床面積がどんどん増えて行きます。
その結果、建築費が上がってしまっては、資産運用上はリスクとなります。

お金をたくさん掛けて、
高い家賃が取れても意味はないのです。



建築費をなるべく抑えた上で、入居者の方に求められる装備を実現する。
そこに意味があります。

現在、世間一般では、1住戸あたりの床面積を増大させて、
ゆとりのある間取りを作る事が主流になりつつあります。
しかし、
床面積を増大させた結果建築費が高額となり、
住戸数が減った計画は、計画に余裕を失わさせ、
将来的には競争力を無くしてしまう事でしょう。


「入居者が最も求めているもの」に
面積を重点配分し、
「それほど気にしない部分」は少し狭めに計画しても良いのです。
その
メリハリにより、住戸面積を増大させず、
ニーズに答えられる計画をする必要があります。

言うは易し、行なうは難し。
論より証拠として
本記事執筆時、
当社での2009年現在の間取例を下に掲載します。
数年後に、競争力がどうなっていくか、
当社の先見性を是非ご覧頂きたいと思います。
→(
結果発表です)
完成時即満室。2年半経過後もなお、高稼働を続けています。(2012年)


1K2009
住戸面積は23mですが、洋室8.25帖を確保し、
柱も洋室に出っ張っていません。
ユニットバスへは
独立した洗面脱衣室から入る事が出来、
そこには
シャワー付洗面化粧ユニットを設置。
床の段差は無いバリアフリーです。

この間取りは、2010年6月、無事完成。VIOLAと命名されました。

バリアフリーは、住戸数を大きく減らしてまで対応する必要はありません。
しかし、今後、少子高齢化時代が進む事を考えれば、
単身者用住戸に入る人の割合の内、
元気な単身高齢者」が多くなって来る事が明白です。
廊下幅などを無駄に広く確保する必要は無いが、出来るならば床の段差は無くす」。
その対応が正しい筈です。

次に来るユーザーである高齢者層が見た時に「不便」と感じるポイント。
これは、当社で考える「
次の次のニーズ」です。
この違いは、これから10年経った頃、見えて来ると思います。
逆に言えば、現時点で、住戸数を減らしてまで対応する必要はなく、
収支に影響を与えずに実現出来るのであれば、是非実現しておきたい、
そういう考え方のものです。

同じ23m
程度の床面積で、
上記の条件を満たす計画はそうそうありません。

また、これだけの装備で物件を検索すれば、
25m
を下回る面積では、まず見付からない筈です。

当社では、設計上のメリハリで、優先順位を付けて、
必要な箇所に必要な空間を割り振っています。
これが競合物件に競り勝ち、
一歩も二歩も先に出る・・・
成功の秘訣です。


当社では、計画の初期段階から提携先事務所の
構造設計一級建築士と詳細な打ち合わせを行ない、構造的に安全な建物を
提供しています。
また、当社所長は一級建築士資格だけでなく、
設備設計一級建築士も保有、
通常の意匠系設計事務所では分からないレベルの知識を有し、
無駄の無い計画立案」に活かしています。


一級建築士の上に創設された資格を持つ、
高度な専門知識を有した建築士達が、
時間を掛けて丁寧に設計し、
そして、粘り強く行政と交渉を行なった結果、作成される設計図書の数々。


当社にしか出来ない設計により、お施主様のより安全な計画を、次々と実現しています。