耐震偽造について

ヒューザーが問題になりましたが、よほど大手のデベロッパを除き、
社内に構造や法規に詳しい一級建築士を抱えているデベロッパは
少ないです。ここでも、やはり、販売担当の営業担当者達が間取りを
決定し、それを外注先の意匠設計事務所に作図依頼をする。
外注された意匠設計事務所の多くは、更に構造建築設計事務所に外注に
出しますが、この時点で、真面目な構造設計者から「この間取りじゃ
全く持ちませんよ。柱を増やして貰わないと危険です」という話が
出て来る。

でも、下請の建築設計事務所がデベロッパにそう伝えたとしても、意見
は黙殺される事が多いのです。限られた敷地条件の中で、専門家でない
人間があーだこーだと悩んだあげくやっと納まった図面は、柱をずらし
たり増やしたりする余地はありません。

本来は、構造設計者が最初の段階から協議に
加わらない限り、まともな建物は建てられない

のです。でも、そんなまともなやり方で建っている建物はあまり多く
ありません。

さて、一応、危険を指摘した構造設計者ですが、せっかくの進言は無視
されてしまいました。彼はその後どうするでしょうか。

真面目な人は仕事を断ります。でも、世の中のほとんどが、こういう仕事
しか無いのです。「設計費が無料」であれば、そこに多くの人件費が使わ
れる筈もなければ、詳細な検討が行なわれる事もあり得ないのです。

まともな仕事の需要を持っている構造設計者の方が少ないため、多くの
真面目な人は仕事を失い路頭に迷う事になります。そしてどこかで理念を
曲げるのか、信念を貫き別の職種を探すのか。

さて、最初から不真面目な構造設計者はどうするか。
「自分の解釈」を変えるだけで良いのです。「建築基準法」では構造的な
多くの計算方法に関して、指針を決めているだけで、具体的な事は「建築士」
の判断に任せる事になっています。

明らかに地震時に耐える事が出来ない筈の壁を「これは耐震壁です」と
言う。柱と梁が通っていないのに通っているかの様に計算ソフトに入力
する。壁式構造は(実験をしない限り)高層化には向かないと言われて
いるのに、高層化してしまう。

そんな事をして怖くないか?怖くないのかもしれません。
全ての責任を取るのは元請と呼ばれる意匠建築設計事務所であって、下請の
構造設計者の名前はどこにも表記されないのですから。
(偽装問題発生以降、構造設計者名の記入を求められ始めています。)

建築士の判断の参考になる様にと建築学会等が、更に細かい「指針」を発表
しています。これを守れば、正しい判断は出来るのですが、この指針を守る
事は法律で義務付けられていません。

「実験を行なった訳でもない一建築士」が自分だけで「安全だと判断」した
構造でも、建築確認を通過してしまうことがある様です。
元々確認申請を審査する側の構造担当者が少なかったのに、民間開放して、
みんなで引き抜き合っているのだから、役所を含めたあらゆる機関で審査
する人間に不足が出るのは当たり前です。役所は中途採用をしないでしょう
から、事態は余計深刻かもしれません。

元請の建築設計事務所は、下請の構造設計者よりは多めの業務報酬を得る
ことが出来ますが、この報酬自体も、国家資格を持っている者の得る報酬
としては、相当低い金額です。構造の知識の無い意匠設計者は、自分が
意味も分からない構造図、構造計算書に印を押し、全責任を負います。
資格を掛け金にしてギャンブルしている様なものなのに、普通に働くより
ずっと少ない額しか稼ぐ事ができません。(意匠は構造の2倍くらい報酬
を得られますが、実働時間は2倍以上です。双方とも身を削っています。)

構造設計費も含め、「設計費」に対する一般の方の認識を変えて頂かない
といけないと思います。まともな物を作るのに相応の費用が掛かるのは
当然のことなのです。

「タダほど高いものはない」という言葉、何故か、設計業界では忘れさら
れています。でも、設計業界程、この言葉が似合う場所は無いと思います。

耐震偽装が発覚した物件は取り壊して作り直しでしょう?
これが「タダほど高い」ものの好例です。被害に合われた方は気の毒ですが
今回の事件は犠牲者が出なかっただけマシです。もし大地震が起きていたら
・・・取り返しのつかない代償が待っている筈なのです。

そろそろ、耐震偽装問題も日本国民の喉元を過ぎてしまった様ですが、
自分の住まいはどうなのか、皆さんがもっと興味を持って良い事だと
思います。客観的な判断をするお手伝いと、建物の安全性を確認する
建築士という職業をもっと利用して欲しいと思います。

結論:最低限の設計費は予算組みして下さい。不動産手数料や消費税と
   比べても大した額ではありません。数時間で作れる様な登記報酬
   にも満たない額しか設計費に回されていない事があります。

   全ての根本となる、設計を建築主の方々にもう少し見直して頂きたい。
   また、聞いた事もない業者が建てた、相場より著しく安価な物件
   を購入する時には、せめて一言、建築士に相談を。建物に限らず
   安いものには必ず理由があるのです。

当社では、所長同士が親戚関係にある一級建築士事務所茶圓設計と提携して
最初の段階から、構造計画をきちんと考えて設計を進めています。

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